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キッズウィークエンド

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インタビュー

2023.04.16 Sun

# 探究学習

学びのパズルのピースを集めて、自分の人生の絵を描いてほしい

学びのパズルのピースを集めて、自分の人生の絵を描いてほしい

イラストを使って思考やビジョンを見える化する「イラスト思考」の開発者で、まんが教育家として知られる松田純先生。「まんが家になろう」などの授業が大人気の松田先生に、子ども時代のお話やまんが教育家になるまでの秘話、今後10年の展望をお伺いしました。

聞き手:キッズウィークエンド株式会社 代表取締役 三浦 里江


松田純先生
1977年熊本県生まれ。内閣府支援『まんが教育プロジェクト』代表、一般社団法人国際まんが教育協会代表理事、株式会社月笛クリエイションズ代表取締役、桃山学院大学客員教授。「イラスト思考」の開発者で、イメージとストーリーを使ったビジネスコミュニケーションの専門家。大学在学中に角川書店よりまんが家デビュー。多くの企業や経営者に「イラスト思考」をはじめとした組織開発プログラムを提供する一方で、教育活動にも精力的に取り組む。禅の体験をベースにまんがの思考法を融合させた教育メソッド「まんが教育」を提唱。

得意な絵で小さな成功体験を蓄積した子ども時代

──まずは松田先生がどんなお子さんだったか、教えていただけますか。

小学生の頃は、あらゆる教科書にパラパラ漫画を描いていて、それを友人と見せっこするのが好きでした。勉強は嫌いではなかったのですが、それよりも絵を描くことにのめり込んでいました。

──そもそも絵を描くことに夢中になったのは、何がきっかけでしたか?

3歳の頃に両親に落書き帳を買ってもらったことでしょうか。真っさらな紙に、雑誌に載っていたガンダムなどをまねして描いてみたところ、「うまく描けるじゃん、僕」と思ったのです。そういった小さな成功体験が自信につながって、そこから絵を描くことが好きになりました。



──先生が影響を受けた漫画家や作品についてお聞きしたいのですが。


子どもの頃は「ドラゴンボール」の鳥山明先生が大好きでした。鳥山先生の表現は、ものすごくポップだけどかっこいい。鳥山先生の表現に憧れて漫画家になろうと思ったほどです。

最近では、同じ熊本出身の漫画家として尊敬している尾田栄一郎先生の「ONE PIECE」がお気に入りです。最新刊が出たら必ず買っています。連載開始からもうすぐ25年になりますが、作品から感じる熱量はどんどん高まっていますね。いまだに最前線で活躍されているのは、本当にすばらしいことだと思います。

アシスタント経験を経て、まんが教育家の道に

──松田先生が漫画家としてデビューされた経緯をお聞かせください。

小学校時代から、漠然と漫画家という職業への憧れはありました。中学生の頃だったのですが、真夜中に自転車で田んぼの道を走っていたときに、月明かりに照らされながら突然「将来まんが家になるぞー!」と閃いて、思わず叫んだこともありました。実は高校2年生の頃、勉強する目的を見失った時期があり、半年ほど家にこもってひたすら漫画を描いていました。最終的にはやりたいことを見つけるために大学に進学したのですが、本当にしたいことは何なのかを自分自身に問い続けた結果、やはり「漫画を描いて表現していこう」と心に決めたのです。

大学2年生から本格的に漫画を描き始めたところ、大学の掲示板に漫画家のアシスタント募集が貼り出されていることを友人が教えてくれて。応募したところご縁があり、小沢真理先生のアシスタントとして採用されました。小沢先生のそばでプロの仕事を学べた経験は大変貴重でしたが、個性的な絵を描く僕はアシスタントの適性に欠けていたようで……。先生から直々に「漫画家として描いたほうがいいよ」とアドバイスを頂きました。

大学4年生の頃、現在のライフワークでもある座禅の修行に入りました。そして、座禅の世界で体験した感動をもとに、10ページほどの短編漫画を描いたのです。その作品をいくつかの出版社に持ち込みしたところ、角川書店の漫画編集者が「一緒にお仕事しましょう」とおっしゃってくださり、デビューに至りました。


──漫画家としてデビューされたあと、どのような経緯でまんが教育家になられたのでしょうか。

デビュー後も漫画家としての収入はほとんどなく、八王子でバーテンダーのアルバイトをしながら漫画を描いていました。角川書店で担当してくださっていた編集者のご尽力もあって、24歳で再デビューできたものの、エンターテインメントとしての作品づくりに頭を悩ませていました。そんなときに、アルバイト先のお客さま経由で八王子の歴史を漫画化してほしいというお話を頂いたのです。その仕事をきっかけに、教育系の漫画を描く仕事の道を切り開くことができました。

20代後半はアルバイトをしながら教育系の漫画を描き、出版社へ営業活動を続けました。学研などの教育系の大手企業から仕事の依頼が来るようになったのは30歳の頃です。この頃ようやく「まんが教育家」としての実績がついてきました。

漫画家を志して自分なりの道を歩いていくということは、他の人から見たら、将来の経済的な保証があるわけでもないし、泥臭い苦労に見えたかもしれません。けれども、自分の中から湧きあがる心の声と情熱に従いながら、一つひとつの出会いや、学びの経験を楽しむ中で、目の前のご縁を大切に歩んでいった結果、現在の「まんが教育家」という専門性や事業も形になっていったように思います。特に、漫画と人間の能力開発や教育を融合させてひとつのプログラムにする授業は、ほかにはない個性だと考えています。


表現する喜びを、自分らしい人生の原動力にしてほしい

──先生が授業でこだわっている点や信念などがあれば教えてください。

まずは描くことの楽しさを体験して、小さな成功体験を積み重ねてもらうようにしています。漫画の描き方やうまく描くコツなどは技術として教えることができますが、その技術を使ってみんなが絵を描いたときに、最終的にできあがってくる「その人らしい表現」は一人ひとり違います。そして、腕を磨けば磨くほど、表現が独自のものになっていくんですよね。描くことの楽しさを知った上で、表現することを通じて「自分がなりたいもの」や「生きたい人生」を見つけてほしいのです。

漫画に限らず人生のあらゆる側面において、志を立てたときから学びや経験が始まります。人生の中で体験した一つひとつの苦労は、間違いなく自分を成長させてくれる。階段の1ステップにも、学びのパズルの1ピースにもなっているのです。その学びのパズルのピースを何年も集めていくと、最終的にすばらしい「自分自身の人生の絵」ができあがります。これからを生きる子どもたちには、自分が描いた絵を通して「人生の絵の描き方」をほかの人とわかち合ってもらいたいですね。自由に表現する喜びを知ることで、自分らしい人生を踏み出す勇気や行動力を得る。僕の授業がそのきっかけになればいいなと思っています。


──授業を通して親世代に伝えたいメッセージはありますでしょうか。

僕らが大人になるまでに経験してきたことと、これからの子どもたちが成長して社会で直面する課題には、想像を絶するほどの違いがあると思います。子どもの個性を上手に引き出して、生きる力に結びつけることが、今後一層大事になるでしょう。変化し続ける時代の中で、自分の個性を生かせる道を切り開くことが大切だと、親御さんからお子さんに伝えて頂きたいですね。

これからの10年は表現者として漫画を描きたい

──キッズウィークエンドの「キャラクターの作り方」「まんが家になろう」シリーズに続いて、やってみたい授業などはありますか?

漫画やイラストを描くことで夢のかなえ方や才能の生かし方が見つかるような、「生き方の教育」がテーマの授業をしたいと考えています。そこに子どもたちが好きなキャラクターや漫画などのエンターテインメント要素を加えて、表現することの喜びを純粋に味わってもらえればと思います。

──最後に、先生の今後の展望があれば教えて下さい。

これまで10年ほど、僕は漫画家というよりも、教育者や経営者として事業を作る仕事をしてきました。そのおかげで、能力開発や人材開発に絵を描くメソッドを組み込んだプログラムが完成しています。今後の10年は、漫画家としての才能を全開にして、表現者として自分が作った教育プログラムをわかりやすく絵解きしていきたいです。

具体的には、Canva(キャンバ)というソフトを使って、主人公の女の子が日常の中でネコと一緒に自分らしい生き方を模索するという漫画を描いています。物語として面白く読めて、人生の知恵や大切な原理原則を学べる作品です。海外で読まれることも視野に入れながら、そういったコンテンツを作っていきたいですね。

●松田純先生の最新授業『まんが家になろう⑧「動かす」編☆“ライバル”を作ろう』<5月13日(土)17:00-18:00、参加費:無料>

「まんが家になろう」シリーズ授業アーカイブ